作品賞:クラッシュ

クラッシュ

<作品賞ノミネート>

クラッシュ
ブロークバック・マウンテン
カポーティ
グッドナイト&グッドラック
ミュンヘン
クラッシュ

監督:ポール・ハギス
出演:サンドラ・ブロック/ドン・チードル/マット・ディロン

『クラッシュ』が、『ブロークバック・マウンテン』をおさえる

2006年のアカデミー賞の作品賞は、シリアスなテーマの作品が勢ぞろいとなりました。

ざっくり言えば、ノミネート5作品のテーマは、「人種差別」「同性愛」「テロ」「赤狩り」、そして、「カポーティ」です。

この中で、『ブロークバック・マウンテン』は、他の映画賞を次々と獲得しており、本命視されてました。

『ブロークバック・マウンテン』は、同性愛についての映画。

カウボーイが同性愛に目覚め、様々な偏見に苦しながら生きる純愛ドラマです。

カウボーイといえば、強くてたくましいアメリカ男性の象徴とされているだけに、その葛藤は大きく、そのあたりを描いたことが評価されました。

しかし、ふたをあけてみると、作品賞に輝いたのは、『クラッシュ』でした。

『クラッシュ』は、ロサンゼルスでさまざまな人種や階層の人たちが人生を交錯させる群像劇です。

人種差別や貧困などの社会問題が凝縮されました。

『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本家ポール・ハギスの脚本が光りました。この「現代アメリカらしさ」が評価され、票獲得につながったようです。

一方、スティーブン・スピルバーグ監督の『ミュンヘン』は、ミュンヘン・オリンピックで起きたパレスチナ・ゲリラによるイスラエル選手団襲撃事件と、報復のために組織されたテロリスト・チームの苦悩を描きました。

『グッドナイト&グッドラック』は、1950年代のアメリカのマッカーシズムや反共産主義の嵐の中で、孤軍奮闘するニュースキャスターのエド・マローの勇士を描いた白黒映画。

『カポーティ』は、作家トルーマン・カポーティが、カンザス州の農村で起きた一家惨殺事件を取材して「冷血」を書き上げるまでをつづった映画です。

監督賞 アン・リー『ブロークバック・マウンテン』

ブロークバック・マウンテン

<監督賞ノミネート>

アン・リー
「ブロークバック・マウンテン」
ジョージ・クルーニー
「グッドナイト&グッドラック」
ポール・ハギス
「クラッシュ」
ベネット・ミラー
「カポーティ」
スティーヴン・スピルバーグ
「ミュンヘン」

アン・リーがアジア人として初の監督賞

『ブロークバック・マウンテン』の台湾人アン・リーが、監督賞を受賞しました。

アジア人としては初めての快挙となりました。

アン・リーは受賞のスピーチで『ブロークバック・マウンテン』について「愛がいかに素晴らしいかを訴えたかった」と語りました。

アン・リーが評価された理由の一つは、その演出力にあると言われました。

一方、『ミュンヘン』のスティーブン・スピルバーグのノミネートも注目を集めました。

今回受賞していれば3度目の監督賞でしたが、果たせませんでした。

『グッドナイト&グッドラック』の監督を務めたジョージ・クルーニーもノミネートされ、男優以外の仕事での評価も高めました。

このほか、脚本家出身である『クラッシュ』のポール・ハギス、キュメンタリーやCMの出身の『カポーティ』のべネット・ミラーも候補となりました。

主演男優賞:フィリップ・シーモア・ホフマン『カポーティ』

フィリップ・シーモア・ホフマン

<主演男優賞ノミネート:2006年>

フィリップ・シーモア・ホフマン
「カポーティ」
テレンス・ハワード
「ハッスル&フロー」
ヒース・レジャー
「ブロックバック・マウンテン」
ホアキン・フェニックス
「ウォーク・ザ・ライン」
デビッド・ストラザーン
「グッドナイト&グッドラック」

主演男優賞の候補は、5人とも初めてのノミネートでした。

受賞したのは、性格俳優として不動の地位を築きつつあるフィリップ・シーモア・ホフマンでした。

「カポーティ」において、ゲイの作家トルーマン・カポーティを演じました。

フィリップ・シーモア・ホフマンは、これまでは脇役が中心でました。

「ブギーナイツ」「ハピネス」などで内向的な役柄を演じ、高い評価を得ていました。

「カポーティ」では、自ら製作総指揮にも名を連ねました。

ホフマンの対抗馬だったのが、「ウォーク・ザ・ライン」でカントリー歌手ジョニー・キャッシュを演じたホアキン・フェニックスでした。

隠れた歌唱力を見事に見せつけました。

このほか、反共主義に基づく「赤狩り」に言論で闘ったキャスター、エド・マローをクールに演じたデビッド・ストラザーンもノミネート。

ゲイの愛と家庭とのはざまで悩むカウボーイを演じたヒース・レジャー。

そして、なんといっても、ピンプ兼ラッパーを演じてブレイクしたテレンス・ハワードのノミネート入りが注目されました。

結果は、下馬評通り、ホフマンの受賞となりました。

主演女優賞:リース・ウィザースプーン『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』

リース・ウィザースプーン

<主演女優賞ノミネート:2006年>

リース・ウィザースプーン
『ウォーク・ザ・ライン』
フェリシティ・ハフマン
『トランスアメリカ』
キーラ・ナイトレイ
『プライドと偏見』
ジュディ・デンチ
『ミセス・ヘンダーソン・プレジゼンツ』
シャーリズ・セロン
『スタンドアップ』

リース・ウィザースプーンが『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』で受賞しました。順当な結果となりました。

ウィザースプーンといえば、何といってもコメディ「キューティ・ブロンド (Legally Blonde)」の主役として有名です。

その前にも「ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!(Election)」で優等生役をコミカルを演じ、注目を集めました。

そんな彼女が、シリアスな演技で挑戦したのが、カントリー歌手ジューン・カーター役。

これが、見事にハマり役となり、栄冠を手にしました。

もともとテネシー州生まれのウィザースプーンは、典型的な南部女性。

カントリーにも慣れ親しんでいました。

そんなバックグラウンドを活かして、ジューン・カーターの名曲の数々を見事に歌い上げました。

また、フェリシティ・ハフマンは、『トランスアメリカ』でゲイ男性の役を熱演。有力候補となりました。

シャーリズ・セロンは女性差別撤廃に立ち上がる炭鉱労働者を熱演した『スタンドアップ』で、『モンスター』に次ぐ受賞を狙いましたが、逃しました。

ジュディ・デンチは『ヘンダーソン夫人の贈り物』で、キーラ・ナイトレイは『フライドと偏見』でノミネートされました。

助演男優賞 ジョージ・クルーニー『シリアナ』

ジョージ・クルーニー

<助演男優賞ノミネート:2006年>

ジョージ・クルーニー
『シリアナ』
マット・ディロン
「クラッシュ」
ポール・ジアマッティ
「シンデレラマン」
ウィリアム・ハート
「ヒストリー・オブ・バイオレンス」
ジェイク・ギレンホール
「ブロークバック・マウンテン」

受賞したのは、『シリアナ』のジョージ・クルーニーでした。

この年、「グッドナイト&グッドラック」で監督賞と脚本賞にもノミネートされていたクルーニー。

監督賞と脚本賞は逃しましたが、助演男優賞は見事にかっさらいました。初のオスカーです。

クルーニーは『シリアナ』で、CIA工作員を演じました。

体重を増やして疲れた中年っぽくなる一方で、スパイならではの殺気立った雰囲気も醸し出し、名演と評されました。

一方で、もう一人有力候補だったのが、『シンデレラマン』のポール・ジアマッテイです。前年の『サイドウェイ』に次ぐ名演でしたが、クルーニーに一歩及びませんでした。

懐かしのウィリアム・ハートは、不気味なギャングのボス役で久しぶりにオスカーにノミネート。短い登場時間で存在感を発揮する演技はさすがでした。

元アイドルのマット・ディロンは、「クラッシュ」で人種差別を持つ警察官を演じ、候補となりました。

ジェイク・ギレンホールはゲイのカウボーイ役を熱演。

助演女優賞:レイチェル・ワイズ 『ナイロビの蜂』

レイチェル・ワイズ

<助演女優賞ノミネート:2006年>

レイチェル・ワイズ
『ナイロビの蜂』
エイミー・アダムス
「ジューンバック」
キャサリン・キーナー
「カポーティ」
フランシス・マクドーマン
「スタンドアップ」
ミシェル・ウィリアムス
「ブロークバック・マウンテン」

あまり有力な候補がいないとされるなか、『ナイロビの蜂』のレイチェル・ワイズが受賞しました。

レイチェル・ワイズは、その美貌を生かしつつ、社会活動家というシリアスな役柄を自然に演じ切りました。

このレイチェル・ワイズに対抗し、急激な追い上げを見せたとされるのが、エイミー・アダムスです。

エイミー・アダムスは当時はほとんど無名の女優でしたが、「ジューンバッグ(junebug)」で妊娠中の田舎娘を見事に熱演。評論家などから絶賛されました。

その後アカデミー賞の常連となるアダムスですが、2006年はその出発点となったのです。

このほか、主演女優賞の受賞歴があるフランシス・マクドーマンドは「スタンドアップ」で炭鉱労働者役で演技。

夫が同性愛に走ってしまう妻を好演したミシェル・ウイリアムス、カポーティの友人のキャサリン・キーナーなど、大物女優がノミネートに名を連ねた。

長編ドキュメンタリー賞 『皇帝ペンギン』

監督:リュック・ジャケ

社会派映画の本来のグラウンドはドキュメンタリー部門だが、今年はドラマ・ジャンルにまで広がりを見せた。

とはいってもこの部門も負けず劣らず社会派の力作が並んだ。

環境が悪化をたどるアフリカの現状を訴える『ダーウィンの悪夢』は、タンザニアにあるビクトリア湖に外来魚を放流したのをきっかけに自然体系はもとより人間社会まで崩れることを描いている。

また『エンロン~巨大企業はいかにして崩壊したのか?』は、米国エネルギー業界の大手エンロンが子会社との癒着報道から株価暴落、粉飾決算、不正取引などが暴かれて2カ月で破綻したその全貌を描いた経済もの。

他に『マーダーボール』や『Street Fight』などが候補に挙がった中、オスカーを得たのはネイチャーものに強いフランスからの『皇帝ペンギン』だった。

皇帝ペンギンの120日間の子育てを極寒の南極ロケでとらえた感動作だ。

総評

メジャー映画会社の不振

企画の貧困さが霞立ってきたハリウッドの大手映画会社では興行的な不振が伝えられ、その一方でインディペンデント系が独自のアイデアと鋭いテーマでカを盛り返してきた。

それらは同性愛、人種対立、テロリズムなど社会的な問題を衝く粒よりの力作ばかり。

作品賞候補の他にも『シリアナ』『ナイロビの蜂』など、大手映画会社による大作に代わって小規模ながら社会派の秀作が並んだ。

そしてカウボーイの同性愛をテーマにした『ブロークバック・マウンテン』が最多8部門ノミネートで大本命と騒がれ、人種問題が絡む群像劇『クラッシュ』と赤狩りと戦ったキャスターを描いた『グッドナイト&グッドラック』が6部門、『ミュンヘン』と『カポーティ』、それに『ウォーク・ザ・ライン/書につづく道』の5部門ノミネートが続いた。

ところがいざ蓋を閣けてみると、賞が分散し、主要部門の受賞はすべて別々の作品からという異例の結果になった。

とりわけ大番狂わせは作品賞発表のラストに監督賞にアン・リーの名が読み上げられ、当然作品賞は『ブロークバック・マウンテン』と誰もが思っていたが、発表するジャック・ニコルソンも思わず驚きの顔をして読み上げたのが『クラッシュ』だった。

今年の名誉賞に輝くロバート・アルトマンも得意とした群像劇だ。

せめて監督賞をアン・リーに与えてバランスをとったという見方もあるが、まだまだアカデミー会員は保守的で頑固なのである。

そのアン・リーの受賞はアジア人初の監督賞ということで大いに意義深い。

かすかに変化の兆しが感じられるが、女性監督の受賞はまだまだ遠いようだ。

結局『ブロークバック・マウンテン』は監督、脚色、オリジナル作曲の3賞、『クラッシュ』も作品、脚本、編集の3賞と痛み分けとなり、同じ3賞受賞の『SAYURI』や『キング・コング』の健闘が目立つ結果となった。

さて今回はジョン・スチュワートを初めて司会者に迎え、皮肉を交えての進行ぶりは可もなく不可もなく。

候補作が社会派ぞろいと地味なせいか、授賞式も例年より低調気味。

そんな中、会場を盛り上げたのがハリウッドの申し子ジョージ・クルーニーだった。

『グッドナイト&グッドラック』で監督賞と脚本賞、『シリアナ』で助演賞のトリプル・ノミネートで意気揚揚と現れた彼、畢々と助演賞を決めて喜びのスピーチで沸かせた。

一方、日本期待の宮崎アニメ『ハウルの動く城』が長編アニメーション部門で候補になったが落選、外国語映画部門ではパレスチナの自爆テロリストを描いた『パラダイス・ナウ』を候補から外すようにとの要請も起きた。

また米国でのTVの平均視聴率が27・1%と昨年より3%も落ちてしまったことも気がかりだ。