米アカデミー賞(オスカー)の「人気映画賞(ポピュラー映画賞)」は、2019年から新たに創設されることになった部門です。作品賞とは別に、大ヒットした大衆映画・娯楽大作などを称えようという趣旨です。数百億円規模の興行成績を記録したブロックバスターが候補の対象になると見られています。英語の正式名称は「Outstanding Achievement in Popular Film」。オスカーの歴史において大きなインパクトのあるカテゴリー変更であり、映画ファンからは賛否両論が出ています。
(アカデミー賞2019→)
これまで、アカデミー賞ではSFやコミック映画、アクション映画が軽視されてきました。例えば、「アベンジャーズ」「スパイダーマン」「ワンダーウーマン」などのマーベル作品は、いくら大ヒットしても作品賞にノミネートされないことが多かったです。過去の「スター・ウォーズ」シリーズも同様です。特殊効果などの技術的な部門では受賞するものの、メインのカテゴリーからは漏れてしまうのです。
作品賞は大人向けの地味な作品が入りやすい傾向があり、若い映画ファンからは不満が出ていました。映画評論家の評価(レビュー)と、実際の観客動員(興行成績)は大きな開きがあり、評論家に好かれるような作品が受賞しやすいことへの違和感が広がっていたのです。
SFやアクションの娯楽大作は商業的には集客力が高く、映画業界を支えています。とりわけ「3D」や「IMAX(アイマックス)」での上映は入場料も高いため、収入源として重要です。ネット配信にお客を奪われつつある映画館にとってはなおさらです。
このため、アカデミー賞主催者としては、芸術性が重視されがちな作品賞とは別に、「娯楽性」や「大衆性(ポピュラリティ)」を重視した賞を設ける必要があると判断したようです。
背景には、アカデミー賞のテレビ中継の視聴率が低下していることがあります。アカデミー賞は世界のアワードの中では最も注目度が高く、視聴者の数も最大です。しかし、アメリカ国内での視聴者数は減っており、2018年は史上最低を記録。テコ入れを必要性が指摘されていました。アカデミー賞の主催団体「映画芸術科学アカデミー」にとって放送局から得られる収入は最も重要です。
人気の高い映画をノミネートすれば、賞の注目度も高まり、視聴率をアップできると考えたようです。
地上波テレビの視聴者が減っているのは、アカデミー賞だけの話ではありません。Netflix(ネットフリックス)やAmazon(アマゾン)に代表されるネット配信が急速に普及しており、若者のテレビ離れが顕著になっています。
また、Netflix(ネットフリックス)やAmazon(アマゾン)、Hulu(フールー)は、映画並みの大規模な予算を投入し、質の高いドラマを制作するようになりました。このため、往年の映画ファンや若者が映画館に行かずに、自宅でネット配信ドラマを視聴する傾向が強まっています。
Netflixなどのネット配信会社のオリジナル作品の大半は、映画館では上映されないため、アカデミー賞では表彰対象にはなりません。エミー賞とゴールデングローブ賞テレビ部門で選考対象になります。ネット配信番組の人気が高まるにつれ、アカデミー賞への関心が薄れ、そのぶんエミー賞などにシフトしているのです。
こうした状況をふまえアカデミー賞としては、映画業界の「看板」ともいえるSFなどの娯楽大作を前面に出して、オスカーの注目度を高める必要があったといえます。
2019年のアカデミー賞から人気映画賞(ポピュラー映画賞)が新設されたもう一つの背景として、「ブラックパンサー」や「ミッション・インポッシブル/フォールアウト」の存在が指摘されています。
ブラックパンサーはマーベルのSFコミック映画。2018年の冬に公開され、商業的に極めて大きな成功を収めただけでなく、批評家からも高く評価され、2019年の作品賞ノミネートが有力視されていました。
しかし、同じく評価が高かった前年の「ワンダーウーマン」が作品賞から無視されたように、ブラックパンサーもノミネートから漏れる可能性もあります。もしそうなったら、いよいよアカデミー賞に対する風当たりが強くなります。人気映画賞を設ければ、少なくともこの部門には入ることが確実なため、安全策として創設した可能性もあります。
また、2018年夏に公開された「ミッション・インポッシブル/フォールアウト」も、シリーズ6作目にして最高のレビューを獲得しています。興行成績もシリーズで過去最高になっています。ただ、作品賞にはノミネートされるのは難しいと見られており、人気映画賞で拾われる可能性があります。そうなれば、ミッション・インポッシブルやトム・クルーズのファンの不満もやわらぐかも知れません。
「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」についても、作品賞でなく人気映画賞でのノミネート入りが有力視されています。
作品名とオスカー開催年 |
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ワンダーウーマン (2018年) |
バットマン・ビギンズ (2006年) |
ミッション・インポッシブル (1997年) |
ブレードランナー (1983年) |
スター・ウォーズ (1978年) |
2001年宇宙の旅 (1969年) |
ブラックパンサー |
ミッション・インポッシブル/フォールアウト |
アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー |