人種差別が強く残る1960年代のアメリカ南部を舞台にした感動ドラマ/コメディ。 ライブツアーをする著名黒人ピアニストと、白人運転手の友情の話。 実話をベースにしている。 2019年のアカデミー賞において、 最有力候補と見られていたNetflixのネット配信映画「ROMA/ローマ」を破り、 作品賞の栄冠に輝いた。 娯楽性とメッセージ性を兼ね備え、 老若男女にくまなく感動を呼ぶハリウッド的な秀作として票を集めた。(2019年のアカデミー賞の結果はこちら→)
受賞 | 作品賞 |
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助演男優賞 マハーシャラ・アリ |
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脚本賞 ピーター・ファレリー、ニック・バレロンガ、ブライアン・ヘインズ・クリー |
ノミネート | 主演男優賞 ヴィゴ・モーテンセン |
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編集賞 |
2019年3月1日(金)
1990年代の傑作コメディ「メリーに首ったけ」で知られるファレリー兄弟の兄のほうのピーター・ファレリーが監督を務めた。 主演は名優ヴィゴ・モーテンセン。
映画の題名になっているグリーン・ブック(Green Book)とは、黒人でも宿泊できるホテルを載せたガイドブックのこと。 1960年代までの米国南部では、ホテルの多くは白人専用になっており、黒人は泊まることができなかった。 このため、黒人が旅行するときは、黒人専用の宿泊施設やレストランを紹介したグリーン・ブックのような特殊な本が必要だった。
ヴィゴ・モーテンセンが演じる主人公は、実在していた白人(イタリア系)の用心棒。 名前をトニー・リップといい、 ニューヨークの有名なディスコ(クラブ)「コパカバーナ」で働いていた。 1962年のある日、用心棒としての職を失い、働き口を探していたところで見つけたのが、 黒人ピアニストの運転手という臨時雇いの仕事だった。
映画で重要な脇役となる黒人ピアニストは、ドン・シャーリーという名前。 米国フロリダ生まれ。 子供のころから天才ぶりを発揮し、 若くしてアルバムを多数リリースする。 映画で描かれる1962年の時点では既に大金持ちになっており、 ニューヨークのカーネギーホールがあるビルの上の階に豪邸を構えていた。 そんな実在のピアニスト(故人)を、「ムーンライト」でオスカーの助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリが演じる。
差別の薄いニューヨークで天才として崇拝される黒人ピアニストが、
奴隷時代を引きずったような差別が残る南部(ディープサウス)へ。
ツアーは長期間に及ぶ。
行く先々で起こり得るトラブルの解決役としての役割も期待されて、
荒くれ者のイタリア系運転手が起用された。
旅を共にする2人のキャラクターの違いをコミカルに対比させながら、
奏法の心情の変化を巧みに描いている。
アカデミー賞の前哨戦では、まず2018年9月のトロント国際映画祭で最高賞の作品賞(観客賞)を受賞した。 同時に出品されていた「ROMA/ローマ」をおさえての勝利。この時点でオスカー作品賞の有力候補の一つとして頭角を現した。 しかし、映画評論家からの評価は、 手放しで絶賛された「ROMA/ローマ」や「アリー/スター誕生」に比べると、やや低めだった。 年末に評論家が選ぶ各アワードでは敗北が続いた。
さらに、ドン・シャーリーの遺族が「映画は遺族に相談なしに製作された。実際には、運転手は友人などではなった」と批判。 風当たりが強くなった。(この遺族の批判に対して、脚本を書いたニック・ヴァレロンガは「生前、ドン・シャーリーから『私のストーリーを書くなら、他の人に話は聞くな』と言われた」とし、シャーリーの遺志に従ったのだと説明している)
勢いを失ったかに見えた2019年1月、米国の映画プロデューサーの投票で選ぶ「PGAアワード(全米製作者組合賞)」で作品賞を獲得する。 PGAアワードでは、ノミネートされた映画に順位を付けさせる方式(ランキング方式)が採用されている。 このため、「1位」で選ばれるだけでなく、より多くの人に「2位、3位以上」に入れてもらうことが勝敗を左右する。 PGAでの予想外の勝利は、グリーンブックがROMA/ローマよりも幅広い人たちに好まれていることを印象づけた。
実はオスカーの作品賞でも、PGAと同じくランキング方式(Preferential Voting)が導入されており、 これを根拠にグリーンブック有力説が再び浮上することになる。 オスカーで最多ノミネートを獲得したROMA/ローマが、映画マニアに熱烈に好まれたのと対比される形で、 「より幅広い層の心をつかめる大衆映画」としてグリーンブックを再評価する声も強まった。
さらに、オスカーの終盤戦になるにつれて、映画館をほぼスルーしてネット配信されたROMA/ローマが作品賞を獲得すれば、 「劇場(シアター)文化」が崩壊しかねないとの脅威論が台頭。 巨匠スティーブン・スピルバーグ監督らオスカーの投票権を持つ一部の大物も懸念の声を挙げた。
また、潤沢な資金力を背景に、豪華な集票キャンペーンを展開するROMA/ローマの配給元Netflixの姿勢にも反発が出てきた。 キャンペーン予算は、ROMAの製作費の2倍にも上り、ハリウッドのメジャースタジオも舌を巻いた。 こうして盛り上がってきた「反ROMA(反Netflix)」ムードの受け皿として、 乱立状態の対抗馬の中からグリーンブックが絞られていく。
評論家や映画ファンのオスカーの予想を集計する「Gold Derby(ゴールド・ダービー)」では、授賞式の直前までROMA/ローマが圧倒的に有利とされたが、 ふたを開けてみると、グリーンブックが作品賞を獲得。「ムーンライト」が「ラ・ラ・ランド」に勝利した2017年をはるかにしのぐ大番狂わせとなった。
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