現時点の作品賞の有力度ランキングです。
- 【作品賞有力候補】
- 罪人たち
- センチメンタル・バリュー
順位 | 有力候補 | ||||||||||||||||||||||
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1位 | 「罪人(つみびと)たち」 | ||||||||||||||||||||||
![]() ブルース音楽劇米南部の黒人兄弟の一つの挑戦を、米現代音楽の源流であるブルースの軌跡と絡めて描く。数々の鮮烈な音楽シーンで魅了しつつ、西部劇風の無法者ドラマから吸血鬼バトルものへと飛躍する一大エンタメ作。 天才クーグラー監督初の完全オリジナルアカデミー作品賞ノミネート「ブラックパンサー」(2018年公開)を若干31歳で撮った天才ライアン・クーグラー監督が、初めて挑んだ完全オリジナル作品。
「風格」「スケール感」有り米国での評価の高さは2025年上半期に公開された主要作品の中で圧倒的トップ。興行成績も極めて良好だったことで、いち早く賞レースの先頭に躍り出た。 オスカー的な「風格」「スケール感」という点において過去の受賞作と比べて見劣りせず。前年の作品賞「アノーラ」が軽い路線だったことを勘案すると、米国史のダークサイドと魂の躍動を活写した本作の重みは際立つ。 早期公開だった「エブエブ」の再来なるか米国で4月公開。授賞式までの期間が長いという点で不利。 前年のオスカーでは、3月公開の「デューン 砂の惑星2」が2部門にとどまった。 ただ、3年前のオスカーでは「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(エブエブ)」が3月公開ながら作品賞などを獲り圧勝した例もある。観客の支持の熱さという点で、本作は「エブエブ」にひけをとらない。 シネマスコア「A」。ホラー初の快挙映画館の観客の評価を聞き取り調査する「シネマスコア」でスコア「A」を獲得(最高位「A+」に次ぐランク)。 シネマスコアの歴史は47年間に及ぶが、ホラー映画の「A」は初の快挙だった。 2週目の落ち込みが少ない口コミ反応が良かったため、公開2週目の落ち込みが少なかったのも特徴。 初週との比較でわずか6%下落(初週週末は4800万ドル、2週目週末は4500万ドル)。 これは、大規模公開作としては2009年の「アバター」以来の好記録だった。 ホラーは通常、熱心な固定ファンが主たる客層となるため、初週が強いが2週目の落ち込みが激しい。 米国史を映す「奴隷解放」後の黒人南北戦争(1861~1865年)で南軍が敗れ、奴隷解放宣言が行われた米国。黒人たちは農園主から住居や農具を与えられ、収穫した綿花の約半分の収益を支払う小作人として働くことになった。ところが、小作人は、衣類や食料を買うため生活費を農園主から前借りしなければならず、経済的に支配され続けた。 本作では、そんな「奴隷解放」後の黒人たちの苦悩、希望、躍動が描かれてている。 綿摘みのメッカ「デルタ地域」舞台は1932年の南部ミシシッピ州のデルタ地域。デルタは、ミシシッピ川とヤズー川に挟まれた肥沃(ひよく)な地帯で、19世紀からプランテーションが広がり、黒人奴隷が綿摘み労働を担ってきた。 黒人たちの演奏小屋「ジューク・ジョイント」この地域で出身で、いったんは故郷を離れ北部のギャングの手下になっていた双子の黒人兄弟(マイケル・B・ジョーダン)が、地元で小さな酒場を開業しようとするところから、物語が始まる。彼らがオープンしようとする酒場は、「ジューク・ジョイント」と呼ばれ、当時アングラ的に流行した黒人の社交場(ダンスホール)。1930年代、デルタ地域の農園近くや街道沿いに点在していた。 ブルース当時、歌やギターが得意な当時の農園の小作人たちは、仕事の後にジューク・ジョイントで腕前を披露したという。音楽のジャンルは、黒人の農園労働者らに歌い継がれてきた「ブルース」。初期ブルース(デルタ・ブルース)を代表する伝説的な奏者兼歌手チャーリー・パットンも、綿摘みなどの農作業をしながら、ジューク・ジョイントでブルースを演奏した。 見事な音楽シーンブルースはジューク・ジョイントを媒介に、デルタ地帯からメンフィス、セントルイス、シカゴへと北上。ジャズやロックなど現代ポピュラー音楽の源になる。本作では、その歴史的な広がりが音楽シーンで見事に表現されており、黒人音楽の力強さが最後まで堪能できる。 黒人霊歌もともと、米国の黒人音楽といえばゴスペルが主流だった。アフリカ大陸から奴隷船で運ばれてきたアフリカ系アメリカ人たちは、自らの土着文化を否定される。奴隷として暴力や絶望に苦しむなかで独自の黒人霊歌を生み出し、天国での救済を唄うようになった。 世俗的で快楽的な「悪魔の音楽」ところが、南北戦争で奴隷制度が撤廃された後も、人種差別は終わらず、黒人たちに失望が広がる。その憂うつ(ブルー)な気分を世俗的な歌詞とサウンドで正直に表現したのが「ブルース」だった。神にささげるゴルペルとは対局をなす世俗的な歌詞と快楽的なリズム、ノリ。プロテスタントなどの信仰深い人たちからすると、音楽による陶酔は悪魔の誘惑であり、「悪魔の音楽」「罪人たちの歌」と呼ばれた。とりわけ禁酒法による統制という背景もあって、酒場でブルースにのって足を踏み鳴らしたり、踊り狂ったりするような人々は堕落の象徴だった。 神がかりな演奏が吸血鬼を呼ぶ本作は、主人公(マイケル・B・ジョーダン)の従兄弟にあたる少年のブルースミュージシャンとしての物語でもある。牧師の父親から「悪魔の音楽をやめろ!」と叱責されつつも、天才的なギター演奏と歌声で人々を熱狂させる。そのサウンドの魔力が、招かれざる客を引き寄せることとなり、大波乱の火種となる。 メタファー本作における吸血鬼は、「白人支配層」や「自由を奪う者」のメタファーとして描かれている。 黒人の文化を盗用し、自分たちの金儲けの手段として利用しようとする搾取者や、好きな音楽を歌い、踊る人たちの楽しみを奪おうとする存在だ。 吸血鬼に血を吸われた者は吸血鬼になる。吸血鬼には「陽の当たる場所で生きられない」「自我を失う」といった制約がある一方で、「永遠の命」を得ることができる。その選択もテーマの一つ。 【ノミネートが有力な部門】
主演:マイケル・B・ジョーダン(ブラックパンサー、クリード) 脚本:ライアン・クーグラー 公開日:2025年6月20日(日本)、2025年4月18日(米国) 製作国:アメリカ 制作会社:米プロキシミティ・メディア(ライアン・クーグラーの会社) 米国配給会社:ワーナー 長さ:2時間17分 影響を受けた作品「フロム・ダスク・ティル・ドーン」 【評点】
北米:2.7億ドル (→) 【製作費】 9000万ドル 【予告編▼】 動画集を開く▼<サントラPV▼><音楽シーン(クリップ)▼> <サントラのアルバム▼> <劇伴のアルバム再生リスト▼> <メイキング映像▼> <伝説のブルース奏者兼歌手、バディ・ガイのライブ映像▼> |
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2位 | 「センチメンタル・バリュー」 | ||||||||||||||||||||||
![]() 疎遠になっていた父と娘2人の再会と確執を描く家族ドラマ。アカデミー賞脚本賞にノミネートされた「わたしは最悪」と同じ監督&脚本コンビ。 【ノミネートが有力な部門】
主演:エル・ファニング(「名もなき者」「マレフィセント」など) 脚本:エスキル・フォクト(ノルウェー人、「わたしは最悪」など )、ヨアキム・トリアー 製作国:ノルウェー、仏、独、デンマーク 言語:ノルウェー語 米国配給会社:ネオン 長さ:2時間15分 【前哨戦での受賞】 ・カンヌ国際映画祭 2位(グランプリ賞) 【評点】
【予告編▼】 動画集を開く▼<カンヌのレッドカーペット▼> |